バンシュ・レースのこと
バンシュ・レースのこと、製図するようになってからのこと。
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"Binche"は、ベルギーの地名です。
妖精のレースとして知られるベルギーのアンティークレース
『バンシュ・レース』は、そのゆかりの地名に因んで名づけられたものです。
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私がボビンレースに興味を持った頃はインターネット上に情報があまり無くて
こんなレースが織ってみたいというイメージはあっても、
それはどういうものかを、どう調べてよいかわかりませんでした。
とりあえず関連書籍で入手できるものをお取り寄せする中で出会ったのが
↑アンティークレースを再現した美しいバンシュ・レースのパターン集でした。
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バンシュ・レースは一方向に織る連続糸タイプのレースの一種で、
フランドルス、パリ、ヴァレンシエンヌなどアンティークレースで知られる各種レースの織り方が駆使されていることなどから、ボビンレースの最高峰のひとつとも言われます。
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アンティークのバンシュには様々なデザインがありますが、
今では生産されていない超極細の麻糸で織られていたもので、
雪の結晶を思わせる特徴的な地模様などで、
植物や宗教的なモチーフを囲むようなデザインが多くみられます。
また、アンティークの技法で新たなデザインを製図するという取り組みもなされてきており、そういったレースもバンシュ・レースと呼ばれるのが一般的です。
注)新たにデザインされたものは、バンシュ・レースのテクニックで製図、といった表記をされるケースもあります。
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古いレースはもっぱら真っ直ぐ織られたボーダーレースばかりで、
ハンカチ用にコーナー製図がなされたものは写真の本にはありませんでした。
ですが、憧れは美しいボタニカル柄のレースのハンカチでしたから、
コーナー製図を自分でできればいいなぁ…と。
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ですが、非常に高度な技術で、それにバンシュ・レースなどアンティーク・レースで名高いものはベルギーの国にとって固有の伝統文化として重要なものということで、長らく門外不出の内容だったそうです。
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近年、海外の愛好家にも学びの門戸が開かれたものの、
バンシュの織り方や製図ノウハウを研究して教えている先生方は、
ベルギーのブルージュにあるレースセンターKantcentrumの先生方など、ほんのひと握りの限られた方々しかいらっしゃいません。
私は当時、現地のサマーコースなどに通うことは無理でしたし、ただ時が過ぎる中、Kantcentrumで研究や教育に長く携わってこられた中崎久美子先生にご帰国時に教えていただける機会に恵まれました。
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最初は何から何まで知らないことばかりなのに加えて、
初めて耳にする専門用語の数々に、文字通り知恵熱が出そうでした。
年に何回か教えていただいては、また翌年…そんなふうに、
少しずつ少しずつ、さまざまな種類のレースも教えていただきつつ、
バンシュの製図に同時進行で取り組みました。
↑アンティークのバンシュ・レースは、こんな細かさです。
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バンシュの製図という場合、
◎アンティークレースの描き起こし
◎ボーダー状レースのコーナー製図
◎専用の製図フォーマットで一からデザイン
といったことをするのが専らです。
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習い始めの頃は、とにかくゴージャスで美しいアンティークレースのようなデザインを自分で描いてみたくて、バンシュ・レースならではの糸の動きなど掲載された詳細なテキストなどありませんでしたから、とりあえず自力で描いてみては手直しをしていただく千本ノック状態。
わけがわからない状態でも、糸の動きを考えているだけで楽しくて。
かなり難解なパズルを解いていくような感覚で、うまくいったらご機嫌でした。
ですが、先生がペンを入れると魔法のように、もっと良い解決法で製図しなおしてくださるので、それを眺めているのもとても楽しくて、織らずに次から次へと描く製図専門状態となっておりました(笑)
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ですが、美しいバンシュ・レースのパターンは既に多く製図されパターン化されているわけで、そういった完成度の高い労作の数々があるのに、自分が同じことをしていくことに徐々に疑問が。
何か、これまでに無い別のことができればいいなぁと思い始めました。
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いろいろと考えるうちに、一般的にバンシュといえば何百本ものボビンを操って織るパターンが華やかですし多いのですが、それって織るのは楽なことではありませんから、
バンシュのテクニックを練習できるミニマムなパターンを考えてみようと思いつき、
ATELIER24PAIRSの由来でもある
24ペア=48本以下で織るバンシュ・レースのフォーマットに行きつきました。
それを、アクセサリーやサンプラーにも使えそう♡
と、ブレスレットやネックレスの製図を試みるように。
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中崎先生にも面白がっていただき、
『レースを織る女性』を意味するLa Dentelliereを
バンシュ・レースの技法でブレスレットにデザインしてみたものを、
2015年にレース専門誌『KANT』誌に掲載していただくこととなりました。
バンシュでブレスレットというと、汚れそうでもったいない!etc...
企画段階ではビックリされることが多かったですが、
その後、いろいろなデザインにつながっていきました。
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バンシュのブレスレットのことは、また別のページで。
(準備中)